「昨日、白石からメールが来ました。明日持ってく物についての」
さっきまで見てるこっちが焼けてまいそうなほど輝いてた夕日も夜に侵食されてきたんやろうか、
外を眺めたまま動かないの横顔がちょっとずつ見えにくくなってきた。
野球部員達の練習の終わりを告げる礼の声がグランドから耳に届き
もうそんな時間かと時計を見ると完全下校の30分前。
夏休みを挟んでもたからやろうか、
前は完全下校の二時間前くらいからここに来てたのに
今日がここに来たんは約10分前。
なんや今日は遅かったなとか提出物はちゃんと出せたかとか
どーでもええ話を振ってみたけどそれも無言。
なんとも居辛い空気にもうそろそろ叫びたくなってきた俺を見ようともせず
窓の向こうを眺めたまま口を開いたの声は自然と耳から脳に入っていく。
「前までは、こんな誰宛でもええような内容でも嬉しかったのに・・・昨日は、違いました」
この空き教室でこっそり喫煙していたのをに見られたのが今年の春で、
秘密にしてる代わりに時々特別授業と名して宿題を見てやりだしたのもその頃で、
突然相談を持ちかけられたのはその二ヵ月後くらいだった気がする。
最初の頃は用が終わればすぐ退散していたが期末考査期間を迎える頃には
部活動をしている子達よりも遅く帰ることさえ多くなってた、のに。
「先生のおかげと思ったんです、相談のお陰かなって、でも、違うんです・・・」
好きな人ができたけど叶いそうにない。
"言って"、"言われて"しまえば楽になれるだろうけど、"言う"勇気も"言われる"勇気もない。
俺にもそんな時代あったなぁとか最初は思ってた。生徒の恋愛相談も仕事の内やとか思ってた。
でも真剣に悩んでるの姿を自分は見すぎてしまった、手を貸しすぎてしまった、
優しくしすぎてしまった、二人でいすぎてしまった。
「・・・もう、ここには来ません。相談することもないし、宿題も自分でやります」
この教室の担任が座るべき椅子は随分前から俺の特等席に、
向かいの席はの特等席になっていた。
薄々途中から気づいてはいた。これ以上はもう駄目と、
この席に座ってはあかん、あの席に座らしてもあかん。
タバコがバレへんためにとやってたことがいつの日からかのためにと変わっていた。
「吸ってたこと誰にも言いませんから、この部屋にいることも言いませんから、」
の俺を見る目が変わってきていることにだって気づいていた。
がここに来る理由が相談でなくなってきてることも気づいていた。
一言"来るな"と、"超えたらあかん"と、そう言えばよかったのに。
"ビビらんと告白してこい"と、そう言えばよかったのに。
"白石の奴、実はお前のこと結構気に入ってるらしいで"と、本当のことを伝えればよかったのに、
「・・・い、今まで、ありがとうございました・・・っ。それ、じゃ、」
ああ、自分がいつからこんな汚い人間になってもたんやろう。
の背さえ押してあげれば必ず白石と幸せになれると、相談された時から分かっていたのに。
きっと次会う時はこう言われるんやろうと、夏が始まる前から予想してたのに。
次会ったら、"先生"としてするべきことは決まってると、自分を納得させてきたはずやのに、
「渡邊先生、ばいば」「誰が帰ってええって言ったんや、」
指名補習
((その名を呼んで、後ろから抱けば、後戻りはできんと知ってたけど、))